営業の構造化アプローチ(第2回)
営業の世界では、「自分にはセンスがないのではないか」「アプローチのやり方が間違っているのではないか」と、自分を責めてしまう瞬間が誰にでも訪れるものです。
特に法人営業(B2B)においては、複数のステークホルダーの存在、長期にわたる意思決定プロセス、複雑な社内ルールや経済合理性など、考慮すべき要素が極めて多く、最も迷走しやすい領域と言えます。
1.本記事の目的と効果
本記事では、30年超の法人営業組織における実務経験を踏まえ、営業活動を“属人的な経験や個人のテクニック”に依存させず、プロセスの構造化によって再現性を高めるための本質的なアプローチを徹底解説します。
抽象的な概念を分かりやすく整理しながら、個人営業の現場にも応用できる普遍的な思考法を提示します。個々の活動の質を底上げし、特に組織やチームで一貫した成果を生み出すための強固な共通言語を体系的に理解することを目指します。
2. 営業成績はなぜバラつくのか
「営業業績のばらつき」には、大きく分けて2つの意味合いが存在します。一つは、営業担当者間で発生するばらつきです。高い成果を維持し続ける担当者がいる一方で、思うように業績が伸長しない担当者も存在しており、これは組織全体として解決すべきマネジメント上の課題と言えます。
もう一つは、特定の営業担当者個人の成績が安定せず、年度によって業績が大きく上下してしまうという担当者個人に起因する課題です。
いずれのケースにおいても、組織の「再現性」という観点から見れば、早急に解決しなければならない深刻な問題であることに変わりはありません。
a. 営業組織の構造的な弱点がバラつきを生む
営業という職種は特定の顧客の代表窓口であるがゆえに、営業活動が属人化しやすくなるという、いわば構造的な弱点を抱えています。これが営業担当者間の成果のバラつきを生むことになります。
営業組織の構造的な弱点
- 顧客の状況はそれぞれ異なるのが普通であるため、営業担当者の対応方法も異なることから、担当者個人の裁量領域が大きくなりがちである
- この結果、営業チーム内で「サイロ化」や「個人商店化」が醸成されやすいという、仕組み上のリスクを孕んでいる。
サイロ化の弊害
- 情報が一元化されず、組織としての意思決定が遅れたり、営業担当者ごとの営業成績にばらつきが生まれたりする。
- この結果、組織全体のパフォーマンスが不安定になる、つまり再現性が担保されないという最も深刻な課題を抱えることになりがちである。

b. 営業担当者の陥りがちなパターンがバラツキを生む
課題は組織面だけにとどまりません。営業担当者個人の営業行動にも、再現性を損なう典型的な営業行動が散見されます。以下は、営業担当者が陥りやすい代表的なパターンです。
カタログ営業
- 商品のスペックを網羅した資料を見せながら説明を行う営業スタイル。
- 受動的で差別化が難しいため、顧客の課題に合わせた提案が弱く、表面的な説明に終始しがちになる。
場当たり営業
- 明確な戦略をもたず、その場の思いつきや惰性で行う営業スタイル。
- 成功も失敗も偶然性が高いため、組織として再現性のある成果に繋げることが極めて困難になります。
環境依存の営業
- 景気や市場、競合の動向など、自社でコントロールできない外部要因に業績が左右される営業スタイル。
- 環境の良し悪しに成果が埋もれ、担当者の真の実力が見えにくくなります。
c. 構造化アプローチが必要な理由
営業のサイロ化や、上で挙げたこれらの営業パターンに共通するのは、組織として再現性がまったく担保されないことです。
だからこそ、営業組織が安定して成果を出すためには、営業担当者の行動を型(フレームワーク)化し、そのプロセスを可視化された基準で遂行を管理するという、「構造化された営業」が不可欠なのです。属人的な営業から脱却し、誰がやっても一定の成果が出る仕組みをつくることこそ、営業組織の本質的な課題解決につながります。
関連記事 ▶『バラバラの営業を再現可能な型に変える方法|体系化と構造化の全工程』
3. 営業における川上と川下の関係
組織対組織の法人営業(B2B)においては、本来、個人の裁量に依存せず「共通言語」で営業プロセスを運用することが強く求められます。この組織的な枠組みや強固な型のことを、私は「営業フレームワーク」と呼んでいます。したがって、営業プロセスを一つの構造として正しく捉え、体系化・構造化を推し進めることこそが、組織営業の絶対的な土台となるのです。
これを川の流れに例えるならば、土台となる営業フレームワークが「川上」、個人の営業テクニックやセンスが「川下」に位置付けられます。川下は河川の末端に位置し、常に上流の水流や環境から決定的な影響を受けます。つまり、川上が正しく設計され、美しく整っているからこそ、初めて川下における個人の技術やセンスが真の価値を発揮するのです。
この川上と川下の因果関係からも、上流に位置するフレームワークの重要性が明確に浮き彫りになります。なお、この両者の具体的な相関性については、以下の記事で詳細を解説しています。
関連記事 ▶『営業の本質は「川上」にある』

4. 現場経験から(コラム)
現場経験から言えること
(その1)
営業という活動をチームメンバーと複数人で協働するケースは決して多くありません。一般的には、1顧客に対して1名の担当者がつくのが通例です。このため、他の担当者が抱える顧客の状況については、詳しく知る機会がどうしても少なくなります。
特に、成果を出せる営業担当者ほど「この顧客の事情は自分が一番よく知っている」という強い自負もあるため、周囲はその担当者の営業活動に対して口を出しにくい空気が生まれがちです。
私はこうした属人化の状況に強い違和感を持っており、いわば営業組織における「構造的な欠陥」であるとさえ捉えていました。この閉塞感を打破する手段を模索した先に行き着いたのが、まさに「営業の構造化アプローチ」だったのです。担当者個人の営業活動を一定の基準に基づいて可視化・標準化することで、この構造的な問題を根本から解決できると確信しています。
(その2)
世の中には営業の啓発本が数多く出版されていますが、日本においてはなぜか「営業スキル」や「営業テクニック」に偏重する傾向が強いように感じられます。例えば、「営業パーソンは絶対に〇〇するな!」や「トップセールの●●方法」、「無敗営業の△△力」といった類のタイトルです。
外部の企業研修を見ても、プレゼンテーション研修やネゴシエーション研修など、基本的には個人のテクニックを中心とした内容が多いのではないでしょうか。かく言う私も、若い頃はこの種の研修をそれこそ溢れるほど受講してきました。
これらは、いずれも営業における「川下」の領域です。こうしたテクニックは、それを行使する個人の性格や、商談時の状況によって効果が大きく左右されるため、本質を意識して使いこなさない限り、単なる表面的な真似だけでは効果は期待薄となります。
誤解のないように付け加えると、私は営業テクニックやスキルの重要性を決して否定しているわけではありません。むしろ、現場の最後のひと押しにおいて必要不可欠な要素と言えます。しかし、どれだけ川下の領域で工夫を凝らしたとしても、川上の水流(フレームワーク)が持つ影響力には抗えません。だからこそ、まずは土台となる川上の領域を強固に整備することこそが、最優先の課題となるのです。
5. まとめ
営業という仕事は、景気、市場環境、顧客事情、担当者の経験値など、数多くの要因に影響を受けるため、成果の再現性を確保することは非常に難しいのです。だからこそ、個々の担当者の属人的なテクニックに依存するのではなく、組織として仕組みを整え、規律をもって長期的に運用することが不可欠な経営課題だと言えます。
営業力は個人のスキルで解決できる領域を超えており、構造化された型を持つかどうかが、組織として成果を安定させられるかの分岐点になることを、まず理解すべきでしょう。
▼ 営業の構造化アプローチを体系的に学ぶ
本記事は、営業プロセスを構造化し、再現性のある営業成果を実現するための連載シリーズです。初期フェーズから解約防止に至る全プロセスの全体設計図は、以下の一覧ページにすべてまとめています。


