営業の構造化アプローチ(第6回)
法人営業(B2B)の新規開拓から成約、そしてその後の関係維持に至るまでの道のりは非常に長く、明確な羅針盤を持たずに突き進めば、担当者はすぐに五里霧中に陥ってしまいます。
この長期にわたる活動の中で「今、何をすべきか」を迷わずに判断するためには、確固たる基準を設け、それに基づいて全体を切り分けていく思考法が不可欠です。これこそが、営業活動における「構造化」の本質に他なりません。
1. 本記事の目的と効果
本記事では、30年超の法人営業経験における知見をもとに、プロセスを複数の構成要素へ体系的に分類して整理します。数ある手法の中でも、実務担当者の具体的な行動へと最も直結しやすい「営業ステージ(進捗のフェーズ)」を軸にしたアプローチを提示します。
時間軸や進捗管理の観点からプロセスを可視化・標準化する目的は、個人のセンスや属人性に頼っていた活動を、誰がやっても一貫した成果を生み出せる「再現性の高い型」へと転換することにあります。場当たり営業から脱し、すべてのステージを戦略的にドライブさせるための全体設計図を、ぜひ今日からの実務にお役立てください。
2. 営業ステージの以外の分類例
営業プロセスを構成する要素は「営業ステージ」だけではありません。例えば、次のような切り口もあります。いずれの基準であっても、組織が抱える課題に直結する基準であることが望ましいと言えます。
| 分解基準 | 具体的項目 |
|---|---|
| セグメント基準 | 顧客の属性、顧客の重要度(Tier1、Tier2など) |
| 役割・担当基準 | 新規開拓、既存深耕、顧客サービス、マーケティングなど |
| 営業担当者の管理基準 | 担当する顧客総体の管理、個々の顧客管理 |
この記事では「営業ステージ」を基準にした構造化を扱います。その理由は、法人営業(B2B)の営業プロセスは長期かつ複雑であるため、顧客ごとに「今どのステージにいるのか」を正しく把握し、そのステージに応じた適切なアクションを取ることが成果の鍵となるからです。
なお、扱う構造は単一基準にこだわる必要はありません。複数基準を組み合わせて管理することも有用です。以下は、❶ 営業ステージによる分類(横軸)と❷ 営業担当者の管理区分(縦軸)による分類を組み合わせた例です。

3. 営業ステージの一般的な分類
営業プロセスをステージで分解する区分は、業種や業態によっても多少変わってきますが、「リード獲得」、「ニーズ分析」、「提案」、「クロージング」、「アフターフォロー」などが一般的です。
いずれにせよ、自社営業の実態に即したステージ分類であること、そして自社組織の区分け(機能や役割の区分)との親和性があることを考慮したうえで基準を決定することが重要です。私がおすすめするステージの分け方は、次の6つに分類です。
- 潜在顧客の探索 (Prospecting)
- 見込み客への絞り込み(Qualifying)
- 商品提案(Proposal)
- 成約に向けた障害の特定と解決(Handling Objection)
- 成約(Closing)
- 関係維持・解約防止(retention)
新規開拓に相当する「❶ 潜在顧客の探索」から「❺ 成約(Closing)」までのプロセスをどこまで細かく区切るかは、業種やビジネス慣行に応じて調整が必要です。
また、成約で終わりではなく、成約後の関係深化が重要なビジネスであれば、「❻ 関係維持・解約防止」のステージを細分化することも必要です。
例えば、ストック型ビジネスにように、解約を防止したり、トップアップ(同商品の追加購入)やクロスセル(関連商品の購入)の重要性が高いのであれば、特に成約以降の工程の設計を設けるべきです。
4. 各ステージにおける適切な行動
営業ステージ分類の目的は、単にプロセスを区切ることではありません。各ステージにおいて「何をすべきか」を明確に定義づけることこそが核心です。
これにより、以下の3つの効果が生まれます。
- ステージに応じた最適なアクションが取れる
- やるべき行動の漏れやズレを組織として管理できる
- 属人的な判断を排除し、再現性を高められる
一方、よく見られる「ズレた行動」の例としては、次のようなものがあります。
(例1)
まだ顧客ニーズの背景を十分に把握していないのに、すぐに自社商品の紹介を始めてしまう
何がズレているのか?
案件はまだ初期段階に過ぎないにもかかわらず、先走ったアクションをとっている
(例2)
価格やアフターサービスの検討段階に入っているのに、商品の特徴ばかり訴求している
何がズレているのか?
案件は既に成約直前まで進んでいる状況なのに、アクションが初期段階のままである
(例3)
解約兆候が出ているのに、それに気づかず、クロスセルの紹介を始めてしまう
何がズレているのか?
本来は顧客の不満や懸念を早期に把握すべき段階であるにもかかわらず、追加提案ばかりしている
5. 現場経験から(コラム)
現場経験から言えること
ここで例示した「認識やアクションのズレ」は、営業の現場において本当に頻発します。それぞれの営業ステージと適切な実務アクションを正しく紐づけることは、営業組織として最低限取り組まなければならない必須の課題です。
このアプローチによって期待される最も大きな効果は、営業担当者の中に主体的な「気づき」が生まれる点にあります。
例えば、「初期ステージにおいて、なぜ詳細な商品紹介をしてしまうことが拙速にあたるのだろう?」という疑問が生まれることで、営業プロセスの本質へと思考がつながっていくからです。
プロセスの構造化はあくまで「型(フレームワーク)」に過ぎません。しかし、この強固な土台があるからこそ、営業担当者一人ひとりの「思考の質」を飛躍的に高めるための強力な発射台になるのです。
6. まとめ
営業プロセスを単に細かく区切るだけでは、組織の成果を最大化することはできません。設定した「営業ステージ」のそれぞれに対して、迷わず実行すべき具体的な実務アクションが明確に定義され、両者が強固に結びついたとき、プロセスは初めて本当の意味での「構造化」を果たします。
これまで個人のセンスや勘に頼らざるを得なかった場当たり的な活動を、誰がやっても一貫した成果を生み出せる組織の共通言語へと転換することこそが、構造化アプローチの本質であり、目指すべきゴールです。
次回からは、今回定義した6つの各営業ステージにおいて「具体的にどのような行動を取り、どのような情報を収集すべきなのか」について、より実践的なロードマップを順次ご紹介していきます。
▼ 営業の構造化アプローチを体系的に学ぶ
本記事は、営業プロセスを構造化し、再現性のある営業成果を実現するための連載シリーズです。初期フェーズから解約防止に至る全プロセスの全体設計図は、以下の一覧ページにすべてまとめています。


