運用会社の営業が身につけるべき知識とは?|市場・商品・顧客

外資系アセマネの現場から

資産運用業は典型的な「知識産業」であると私は考えています。顧客から預かった大切な資金を保全・増殖させるためには、専門家の高度な情報収集力、市場分析、リスク評価といった「知的資本」を総動員する必要があるからです。

では、その資産運用会社の「顔」として最前線に立つ営業パーソンには、具体的にどのような知識が求められるのでしょうか。

この記事では、資産運用会社のインサイド(内側)にいるからこそ分かる「本当に身につけるべき知識」を体系的に解説します

この記事でわかること

  • 知的産業である資産運用会社の営業パーソンが、身につけるべき知識の全体像を体系的に理解できます。

  • 営業パーソンに求められる知識は広範囲に及びますが、限られた時間の中で最も重要な知識や情報は何かを、その理由と共にお伝えします。

  • 市場・商品・顧客というコアカテゴリーを、実務に即したプロの視点で網羅できます。

この記事は主に、資産運用会社の営業パーソン(又はこれから目指す方)に向けて書いていますが、営業以外の職種(運用、ミドル/バックオフィスなど)に携わる方にとっても、「運用のプロが顧客とどう向き合っているのか」という営業の思考プロセスを理解することは、社内連携や業務の質を深める上で非常に有益です。ぜひ最後までご一読ください。


知識産業における営業の役割は、単なる商品説明ではありません。専門知識を駆使して、顧客自身も気づいていない潜在的な課題を浮き彫りにし、その解決策を提示することを目指さねばなりません。そのためには、当然ながら、営業自身も豊富な知識を持っていなければ務まりません。

しかし、人間の時間は有限です。本記事では、資産運用業界で働く営業が押さえておくべき情報とその優先度について、私自身の経験をもとにお伝えしたいと思います。大きな分類としては、「市場・資産に関する知識」、「商品に関する知識」、「顧客に関する知識」、そして「その他の知識」の4つです。以下、順番に説明いたします。



資産運用は、言うまでもなく資本市場・金融市場と対峙する仕事ですので、営業であっても市場や資産に関する基本的な知識は必須になります。

銘柄ひとつひとつの細かな情報までは必要ありませんが、市場の歴史・変遷、構造や現在どのような状況にあるのかを理解していないと、顧客との会話が表面的になってしまうし、顧客がどのような過去を経て現在の運用状況にあるのかも把握できません。

とはいえ、近年は新たな資産が次々と登場しています。それらに関する情報を片っ端から闇雲に理解しようとするのは、正直あまり効果的ではありません。

運用資産へ投資する見返り(リターン)は突き詰めれば、リスクを取ったことへの対価です。したがって、まず押さえるべきは運用資産の本質である「内在するリスクの種類」です。

この本質、つまり「リスクの所在」を理解してしまえば、新たな資産がどれだけ複雑そうに見えても、どこにリスクがあるのかという視点から整理できるようになります。すると、既存の資産との共通点を見出すことができ、顧客に対しても効果的な説明は提案ができるようになります。


  • 資産運用の営業にとって、市場やアセットクラスの基礎知識は必須の武器
  • 最新の商品を闇雲に追うのではなく、資産に内在する「リスクの種類」に着目する
  • リスクの本質を整理できれば、顧客に対して根拠のある効果的な提案ができる



アセットクラス(資産)の特性を理解したら、次はいよいよ具体的な「自社商品(投資信託など)」の理解です。

商品理解においても、まず押さえるべきは「どこにリスクがあるのか」です。そのうえで、過去の運用成績の特徴、例えば、過去どれくらいの下落率を経験したか、どのような相場環境で勝ちやすいかなどを確認しておく必要があります。

ただし、重要なのは、ただ単に事象や事実を知っておくことだけでなく、「なぜそのような特性が生まれるのか」という背景や根拠を自分なりに整理できて初めて、商品理解は本物になります。それによって、他社との比較における差別化ポイントが自然と浮かび上がり、結果として、カタログのスペックと特徴を読み上げるだけの「独りよがりの営業」から脱することが可能になります。

もちろん、すべての自社商品を「広く・深く」理解することが理想ですが、知識の少ない若手担当者にとっては現実的ではありません。

では、「広く・浅く」と「狭く・深く」のどちらを優先すべきでしょうか?私の経験から言えば、迷わず「狭く・深く」を強くおすすめします。


現場経験から|狭く・深く
リーマンショック後の金融危機のとき、多くの自社商品の運用成績が悪化し、売れる商品がほとんどなくなった時期がありました。そのなかで唯一、相対的に運用が安定していた商品があり、私はその商品だけを売り続けざるを得なくなりました。

結果として、そのひとつの商品と、そのもとになる市場や資産について自然と詳しくなり、その資産の本質が見えるようになりました。すると、不思議なことに、他の資産の理解も一気に早まったのです。

振り返っても、「広く・深く」へ到達するための最短ルートは「狭く・深く」だと強く思います。

なお、中規模以上の運用会社によっては、営業とは別に「プロダクト・スペシャリスト(特定の商品の運用状況を専門的に担当する担当者)」を配置するケースが多くなっています。そうした役割分担であっても、営業担当者は商品の説明をプロダクト・スペシャリストに丸投げするのではなく、自分自身の言葉で語れる一定レベル以上の商品知識は必要でしょう。


  • 商品理解においても、重要なのはその商品のリスクと所在や特性を生む根拠を把握すること
  • 「狭く・深く」の推奨:まずは1つの商品を徹底的に極めることが、他のすべての商品を理解する近道になる
  • プロダクト・スペシャリストがいる場合でも、営業として自分の言葉で語れる商品知識を持つ



営業の究極の役割は、これまで解説してきた「市場(マーケット)」や「商品」の知識を、「顧客」と結びつけることに尽きます。市場や商品が一方の極にあるとすれば、顧客はその対極にあります。つまり、顧客を深く理解することは営業の大前提です。

顧客について「何を知るべきか」の範囲は非常に広く、とてもこの記事で網羅できるものではありませんが、顧客に関する知識又は情報取得の目的は「顧客の潜在的な課題を見出すこと」です。そのために必要な情報は、当該企業の変遷、中期経営計画、組織体制、役員の経歴、役員間の関係性など多岐にわたります。

機関投資家ビジネスであれば、年金基金も主要顧客の一つです。その場合はさらに、個別基金の年金制度や予定利率、基本アセットアロケーション、常務理事・運用執行理事の経歴なども必須情報と言えるでしょう。

一般的な運用会社であれば、こうした顧客情報をもとに「アカウントプラン」(呼称は会社によって異なりますが、特定の顧客とのビジネスに関する営業戦略書)を作成します。このプランの中で顧客情報と商品を結びつけ、当該顧客に関する営業戦略(課題とソリューション、具体的なアクションプラン、そしてロードマップ)を作り上げていきます。つまり、顧客を知ることは、単なる情報収集ではなく、市場・商品という知識を、顧客の課題に接続するための必須プロセスなのです。


  • 営業の役割は市場・商品と顧客を結びつけること、そのため、顧客を深く理解することは営業の大前提
  • 顧客の情報を収集する目的は「顧客の潜在的な課題を見出す」ことにある
  • 「アカウントプラン」を作成し、具体的なアクションプランとロードマップを作り上げることが必要



顧客を理解するうえで欠かせないのが、顧客と取り巻く外部環境の把握です。顧客の属する業界構造や競争環境はもちろん、顧客の属性によっても必要な知識は変わります。たとえば年金基金が顧客であれば、年金制度の仕組みや退職給付会計についての知識が必要になりますし、金融法人が顧客の場合は金融会計やバーゼル規制、ソルベンシー規制といった金融規制の理解が欠かせません。

また、金融法人は、商品の評価をする際、リスク・リターンだけを見ているわけではなく、その商品を保有した際に自己資本にどれくらいの負荷がかかるかという視点が極めて重要になります。もし営業担当者が規制の仕組みを理解していなければ、有効な提案はできないのです。



ここまで、資産運用会社の営業パーソンに必要な知識を網羅してきましたが、その範囲は極めて広範囲に及びます。

しかし、人間の能力や時間のキャパシティには限りがあります。すべてを完璧にやろうとするのではなく、明確な「優先順位」をつけて効率的に身に付けていくことが不可欠です。

私の長年の実務経験から結論を申し上げると、最も優先して磨くべき重要な知識は「市場・資産に関する知識」と「顧客に関する知識」の2つです。

その理由は、資産運用会社の営業の本質が「顧客」と「市場(資産)」を結びつけることにあるからです。そう考えると、商品はあくまで両者を繋ぐための「手段(ツール)」にすぎません。目的と手段という観点から考えれば、道具の知識(商品知識)よりも、「市場(投資対象)」と「顧客(課題)」の知識を優先するのは当然の帰結なのです。

もう少し営業現場のリアルな視点からお話ししましょう。

自社の「商品知識」については、実は社内のプレゼンテーション資料や提案書にかなり詳細に記載されているのが一般的です。それ以上の一歩踏み込んだ深い運用の中身については、それを専門にしているファンドマネージャーや運用側の説明に委ねるのが妥当です。です。営業がそこまで完璧に抱え込む必要はないと思います。それよりも資料には載っていない知識や情報の方がよほど価値があると言えるでしょう。



資産運用業界が知的産業である限り、その最前線で運用会社の「顔」として機能する営業の役割は極めて甚大です。

膨大な情報に圧倒されることなく、知識を構成している要素を正しく理解し、どこに知識の深さを求めるのかを掴むことが大切です。


本記事の要約

  • 資産運用会社における営業の役割は、専門知識を駆使して、顧客自身も気づいていない潜在的な課題を浮き彫りにし、その解決策を提示すること

  • 営業パーソンが身に着けるべき知識は、「市場・資産に関する知識」、「商品に関する知識」、「顧客に関する知識」、「その他の知識」の4つに分類される

  • 時間は有限だからこそ、自身が優先すべき知識を明確にし、そこに集中することが知識習得の王道


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