競合他社との厳しいコンペにおいて、私たちはつい「自社が勝てるポイント」ばかりを中心に訴求してしまいがちです。しかし、本当にそれだけで十分だと言えるのでしょうか?
実は、選考のステージが進むにつれて、顧客の評価基準は劇的に具体化していきます。今回は、コンペ最終盤の激しい競り合いを勝ち抜くための、営業における視点の切り替え方について解説します。
1. 本記事の目的と効果
営業の努力が実り、多くの競合の中から少数の候補に絞り込まれる最終選考の段階(ショートリスト)に入ったとき、営業担当者としては一定 の喜びを感じる瞬間です。しかし、同時にここから先は、候補を絞り込む段階(ロングリスト)のステージとはまったく異なるゲームへと切り替わり、これまでとは違う施策が求められます。
本記事では、30年以上の法人営業の経験をもとに、「勝てる」という視点からではなく、「負けるとしたらどこか」という敗因の観点から、最終的な勝率を極限まで高める方法について解説します。
コンペの最終局面で競合を破り、確実に受注を勝ち取るための組織営業のアプローチとして、一つの視点や一助として少しでも参考になれば幸いです。
2. 「勝てるポイント」提案の弊害
ショートリストに入ったということは、自社商品が顧客の求める基本条件をクリアしていることを意味します。ここから先は、やはり同じように基本条件を満たしたライバル社との一騎打ちとなり、どれだけ自社ならではの「付加価値」や「差別化ポイント」を明確に示せるかの勝負へと意識が変わります。
そのために、競合商品の情報を収集・比較し、自社商品の強みを的確にアピールする――。つまり「勝てるポイント」を中心に据えた提案を行うアプローチが一般的です。
しかし、自社の強みばかりに意識を集中させすぎると、最終局面において最も重要な「他の要素」への配慮が抜け落ちてしまう落とし穴があります。
「勝てるポイント」中心の提案が招くリスク
自社の強みや特性といった「勝てるポイント」の訴求に偏りすぎた営業活動は、顧客の心理を置き去りにし、結果として以下のような弊害を生み出しかねません。
3. 「負けるポイント」からの視点の重要性
ショートリストのステージで私が徹底していたのは、「負けるとしたら、どのポイントが敗因になるのだろうか?」という逆の発想に基づく対策です。これは、私自身の数多くの苦い経験から得た教訓でもあります。
かつて、自信満々で臨んだコンペティションで敗北した際、その理由を知って驚愕したことが何度もありました
「当社が選ばれなかったのは、そんな理由だったのか!?」
当時の私は、自社商品の強みを語ることに集中しすぎるあまり、他の要素にまったく目が届いていませんでした。顧客の真の選定ポイントは、私たちが考えていた強みの競い合いとは、まったく違う次元にあったのです。たとえある顧客にとっては「強み」となって響いたポイントでも、別の顧客にはまったく響かないことを理解する必要があったのです。
a. 敗因となりそうな要素の洗い出し
そこでコンペ最終盤に必要な作業が、まず「自社が負ける可能性が少しでもあるポイント」を客観的にすべて挙げていくことです。例えば、以下のような要素を考えられるだけ洗い出します。
このように「負けるポイント」は、商品スペック、組織体制、関係性、サービスなど、あらゆる領域に潜んでいると考えなければなりません。
顧客の意思決定は複数の要素(ファクター)で構成されている以上、それらを丁寧に分解していく作業が欠かせません。
情報や事象の構造を分解することに慣れてくれば、一定のカテゴリーごとに過不足なく列挙できるようになります。
情報を構造として捉え、そこから仮説を構築する方法については、こちらの記事で解説しています。👇🏼
関連記事 ▶『情報を「構造」として捉える|営業が考えるべき論理的仮説構築の方法』
b. 敗因リスクの高い要素から先に手を打つ
「負けるポイント」を洗い出した後は、それらをすべてフラットに扱うのではなく、敗因となる可能性(蓋然性)の高いものから順に、先回りして対策を打つことが極めて重要です。
特に、コンペの最終局面において致命傷になりかねない「蓋然性の高い敗因」としては、主に以下のような要素が挙げられます。
こうした「未確認・未対応」のまま放置されている領域は、営業担当者が想像している以上に大きなリスクへと発展します。

上記に示した図のように、「どの要因で負ける可能性が高いか」を、「商品スペック」「価格」「関係構築」などの項目ごとに細かく分解し、現在の対応ステータス(未対応・一部未対応など)と優先順位(Priority)を明確にすることが重要です。
たとえば、「顧客サービス」が「未対応」で「優先度:高」と判断された場合は、すぐさま「至急提案」を行うといったように、洗い出したリスクを具体的な次のアクションへ直結させ、一つひとつ確実に「敗因の芽」を摘んでいくアプローチがコンペの勝率を劇的に高めます。
4. 私の現場経験から(コラム)
現場経験から言えること
最終局面において、「勝てるポイント」を中心とした提案だけでは間違いなく、片手落ちになります。実際、私自身もそれを痛感した冷や汗の出るような場面がありました。
それはある競合コンペのショートリスト(最終選考)の段階でのことです。社内の関係者から「契約後のアフターサービス内容は判明しているのか?」と指摘され、慌ててその内容を確認すべく、当社のサービス案を提示したところ、顧客の担当者から以下のような厳しい言葉を掛けられました。
他社からは既に具体的なサービス提案があったけれど、御社からは何もアプローチがなかったので、そもそもサービス自体が存在しないのかと思っていました。
当社にとっては、これが最も重要な選定ポイントの一つだったため、実は御社の評価が大きく下がっていたところだったのですよ。
その瞬間、背筋がヒヤッとしたことを今でも鮮明に覚えています。
こちらとしては、「アフターサービスの詳細については、契約後にじっくり詰めればよい」と勝手に思い込んでいました。しかし顧客側は、「現時点で提案がない=そのサービスや体制が存在しない」と受け取っていたのです。まさに、自社が未確認のまま放置していた項目が、顧客の頭の中で「致命的な敗因候補」として静かに膨らんでいた典型例でした。
この手痛い経験以来、私は「顧客と十分な議論ができていない項目」や「顧客がまだこちらの体制を認知していない可能性がある領域」をすべて敗因候補として必ずリストアップし、早い段階で一つひとつ確実に潰していく体制を徹底するようになりました。「勝てる強み」を磨くのと同じくらい、「負けるリスク」を先回りして消し去ることが、激しいコンペを勝ち抜くための鉄則です。
5. まとめ
元プロ野球監督の名言に「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉があります。営業もまったく同じです。負けを不思議・不可解なままに放置している限り、勝率は上がりません。ショートリストのステージで勝ち切るためには、敗因予測から逆算して戦略を組み立てることが重要なのです。
了
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