「訪問メモ」=思考を体得するための重要ツール

思考を深める補助線

当ブログのメインテーマ、「思考する営業」ーーー。

単に思考するのではなく、「論理的」に思考することがビジネスでは重要ですが、論理的思考方法を体得することは容易ではありません。

思考する際には、「何を」「どのように」考えるかを明確にする必要があります。当ブログでも、この2つについての解説が中心となっています。「何を」については営業プロセスの構成要素が対象となり、「どのように」は情報の分解・分析・仮説構築という思考プロセスを指します。

それぞれの詳細な解説は別記事を見ていただくとして、本記事では、この思考をどうやって体に染み込ませていくべきかを掘り下げます。

結論から言えば、ビジネスの現場で使える思考力を磨くには、日々の「訓練」がどうしても欠かせません。今回は、その具体的な体得アプローチについて考えていきます。


この記事でわかること

  • 営業パーソンが「考える(思考)」を訓練し体得するためのツールとして、「訪問メモ」の有効性について解説します。

  • 「訪問メモ」の目的と、その中でも営業担当者の思考を整理し、言語化することの重要性とその具体的な内容がわかります。

  • 「量」重視の場当たり営業から脱却し、思考を強力な武器に変えてビジネスの現場で勝ち続けるための本質的なマインドセットが身につきます。

「考えるとは」とはどういうことか?

人は生きている限り、常に情報を処理し、都度、判断をしています。その意味では、誰もが日常的に「考えて」いると言えます。

しかし、本記事の対象とする「考える(思考)」とは、そうした受動的なものではなく、能動的かつ論理的に考えること。もっと言えば、正解が用意されていない問い(本質的な問い)に対して、自分なりの答えを導出することです。

この「問い」を立てること、そして、問い続けること、がとても重要になります。「本質を問う」というと、哲学における形而上学的な真理探究のイメージを持たれるかもしれませんが、そうではなく、営業活動において遭遇する事象や物事を論理的に追及していくアプローチです。

「問い」に対して答えを出す思考方法は様々なアプローチがあります。「弁証法」にはじまり、「演繹法」や「帰納法」、「アブダクション(遡及的推論)」など、何を目的にするかでさまざまな方法があります。いずれの方法であっても、それを習慣にまで昇華させることが重要です。

しかし、これが実に難しいーーー。


書籍の紹介|『論理的思考とは何か』渡邊雅子著(岩波新書)


論理的思考をテーマにした書籍は、文字通り、山のように出版されています。古くは、古代ギリシアの哲学者アリストテレスの「三段論法」に始まり、19世紀以降の現代論理学に至るまで、多くの思考方法が編み出されてきました。


ここで紹介する『論理的思考とは何か』は単なるハウツー本ではありません。本書の興味深い点は、論理的思考はひとつではなく、文化的側面があると指摘している点です。文化と価値観に紐づいた思考の型として「経済」(アメリカ)、「政治」(フランス)、「法技術」(イラン)、「社会」(日本)の4つの領域があること、目的(そこに価値観が現れる)を特定しそれ合った思考方法を選ぶことの重要性について、とても明快に説明されています。

私たちビジネスパーソンは、アメリカ型の「経済」思考アプローチ、つまり「主張ー根拠ー結論」の型に馴染みがあり、それこそが唯一絶対の論理だと思いがちです。しかし、筆者は、これからの時代は、4つの論理を戦略的に使い分ける多元的思考が必要だと主張しています。本書の最後に、とても重みのある言葉が残されています。

主体的に考えるとは、まずは思考し判断する「目的を明確にする」こと、そして目的に応じて「手段を選べること」にある。論理的思考法は目的ではない。あくまで手段である。

型やフレームワークを学ぶこと(手段)が目的になってはいけません。「何のために考えるのか」という目的を見失わないための、原点に立ち返らせてくれる一冊です。



「考えること」を習慣化するためには、「思考の訓練」が必要だというのが、私の考えです。

この訓練を受けていると、どのような課題に直面しても、自ら「問を立てる」ための足がかりを掴むことが可能になるからです。この「足がかり(又は切り口)」を見出せれば、そこから思考の展開は比較的スムーズに進みます。訓練をうけていないと、これがとても難しく、時間もかかってしまうのです。

では、多忙を極める営業パーソンはどうやって訓練されるべきなのでしょうか?


外部セミナーの受講も一手ですが、受講で得た内容を日々継続して実行しない限り、賞味期限は長くて1か月、というのが私の経験から言えることです。しかし、この「継続」こそがとても難しい。

そこで、私が長年実践し、その有効性を自信をもってお伝えできる訓練法があります。それが「訪問メモ」の作成です。おそらく多くの営業部門で「営業日誌」をルーティン化していると思いますが、私がここで紹介する「訪問メモ」は、以下の項目を網羅するようにします。

  • 訪問先(顧客名、部署、担当者名および役職)
  • 訪問目的(訪問の根拠・背景、訪問に至る経緯、訪問によって達成すべきこと)
  • 成果と課題(訪問によって達成できたこと、未達となったこと)
  • 新情報と気づき(訪問によって新たに判明した情報や自身の反省、気づき)
  • ネクストアクション(訪問を踏まえた次のステップとその選択根拠)

訪問・ミーティングのたびにこれらを網羅したメモを作るのは、非常に手間がかかります。実際、多くの人が「事実の羅列」だけで終わらせてしまいがちです。酷いのになると、顧客と当方の会話文のみを記載しているメモもあります。会話文は、臨場感を出すために必要な場合もありますが、あくまでそれは補足情報にすぎません。

最初は、上記の内容を網羅したメモを作るのを難しく感じると思います。しかし、何度も愚直に繰り返すことによって、強力な思考の訓練になっていくのです。


訪問メモの目的は、営業担当者個人の思考の訓練だけではありません。この訪問メモの目的は、整理すると、以下の3点に集約できます。

訪問メモの目的

  • 組織として営業活動の記録(引き継ぎや過去の経緯の把握に不可欠)
  • 関連部署との情報共有(営業の状況を正確に伝え、組織の理解を得るため)
  • 担当者個人の思考の整理(個人の思考の訓練)

❶の「営業活動の記録」という目的は、組織営業という観点からは当然のことでしょう。担当者が退職した場合や交代した場合に、新任者が当該顧客に対するこれまでの営業経緯を把握するためには必要不可欠です。

❷の「関連部署との情報共有」は、これも組織運営からは関連部署に状況を的確に把握してもらうためのものであり、いわば営業担当者のアカウンタビリティ(説明責任)と言えます。

そして、❸「担当者個人の思考の整理」が、私が提唱する訪問メモの核心部分です。この目的があるからこそ、単なる事実の羅列の内容では十分ではないのです。

メモに書くということは、自分の考えを言語化するという作業に他ならず、これはとても難しい作業です。しかも、それを訪問の都度、取り組むわけですから、相応の時間がかかります。不慣れな人であれば、訪問1回につき1~2時間かかることも珍しくありません。私のいた営業部署でも、「メモにそれだけの時間を費やすくらいなら、1件でも多くの顧客に訪問する方がよっぽど大事だ」という声が何度も上がりました。

そうした意見を否定するつもりはありませんが、私からすれば、「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」方式で効率が悪いうえに、営業パーソンに求められる本質的な思考力はいつまでたっても身につかないでしょう。

仮に、所属する組織が「メモよりも訪問数」を重視する方針で、訪問メモやに営業日誌の作成を義務付けられていなかっとしても、営業パーソンは主体的に訪問メモを作成すべきです。



私はこれまで、何度か日系と外資系の運用会社を転職してきました。ある転職活動時の面接で「日々の営業活動で最も重視していることは何か?」と問われた際、「訪問メモを時間をかけて作成することです」と答えたました。すると、その営業部長さんは、その理由を問うこともせず、即座に「うちではメモなんか作成していない、その時間があるなら、すべて営業活動に割いている」と言い放ちました。

訪問メモを作成していない事実も然ることながら、メモ作成を重視するという私の答えの根拠さえも聞こうとしない姿勢に呆れ、私の方から辞退させて頂いたことがあります。

日頃からメモを丁寧に書けていない営業パーソンは、社内会議でも単なる事実の報告にとどまり、次ステップとの関連性も希薄になっていることが多いのです。しかし、これは担当者だけではありません。この思考の訓練ができてない上司は、会議での質問も的外れ、本質的でない質問を乱発しがちです。「問う」側も訓練が必要だということですね。


本記事の要約

  • 「考える(思考)」を習慣化するためには、「思考の訓練」が必要。訓練を受けていることで、どのような課題に直面しても、自ら「問を立てる」ための足がかりを掴むことが可能になる

  • 思考の訓練を日々の営業活動の中で実施する方法としては「訪問メモ」が最適。記録や組織への共有という目的だけでなく、担当者個人の思考の整理をする機会として強力なツールとして機能する。

  • 最初は作成に時間がかかっても、体得することによる効果は絶大。


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