外資系企業で営業マネージャーを務めていた頃、私は数多くの営業パーソンの中途採用に携わってきました。しかし、数回の面接だけで候補者の真価を見抜くことは、想像以上に難しいものです。だからこそ私は、実績よりも「思考の質」を問う質問を重視してきました。
中途採用で「即戦力となる優秀な営業パーソン」を確実に見極めたい面接官や採用担当者の方に向けて、この記事を執筆しています。
1.本記事の目的と効果
この記事では、30年超の法人営業で培った知見をもとに、「思考の質」が営業パーソンの中途採用に及ぼす影響について詳しく解説します。
本記事が、非の打ち所がない見事な履歴書に惑わされず、実際の面接(インタビュー)の場で候補者の「本質的な思考レベル」を確かめるための、一つのヒントとして参考になれば幸いです。
2. 面談の課題と対応
即戦力を求める中途採用の場合、人事部(HR)ではなく、実際に一緒に働く部署のメンバーが面接官(インタビュアー)を務めるケースが少なくありません。
しかし、彼らは採用の専門家ではないため、どうしても履歴書や経歴書の表面的な情報に引っ張られがちです。候補者の本質を深く評価することは、決して簡単ではありません。
a. 完璧な経歴書と盛られた実績
外資系企業における中途採用の場合、候補者が会社に直接コンタクトしてくるケースは少なく、多くは人材紹介会社(ヘッドハンター)経由で紹介されます。紹介される人材は、経歴書も履歴書も一点の曇りもない経歴の持ち主で、それらの中には過去の成約実績がこれでもかと並んでいます。
私が同席した面接では、同僚は主に以下のような過去の実績やスキルを中心とした質問をしていました。
一見、必要な情報は網羅されているようですが、これはあくまで表に出ている情報の裏付けにすぎません。もちろん、それはそれで重要なことなのですが、正直なところ、実績は”盛ろう”と思えばいくらでも盛ることが可能です。
実績や事実のみの情報の限界
- 実績が事実だとしても、それが「本人の貢献」によるものか、「企業ブランドの力」や「商品力」によるものかの判断がつかない
- すべては結果論であり、実績に関する説明は、後付けで何とでも色付けができてしまう
特に、法人営業(B2B)の場合、企業看板による貢献は非常に大きいため、経歴書や実績だけで候補者を評価するのは危険なのです。
b. 採用において重視すべき「思考の質」
では、実績や事実以外の何を確認すればよいのでしょうか?
私は、候補者が営業担当者であれ営業マネージャーであれ、事実確認よりも「営業に対する考え方」や「思考の質」を捉える質問を中心に据えていました。事実に追及が必要な場面でも、必ず背景や理由を掘り下げます。以下にいくつかの具体例を挙げてみます。
相手の発言 ❶
「顧客の信頼を勝ち得たことによって、最重要顧客A社から大きな契約を獲得できた」
当方からの質問例
顧客の信頼を勝ち得たと、なぜそう言えるのでしょうか。
また、その信頼とA社からの契約獲得の間に、どのような因果関係があるのか、その理由を教えてください。
相手の発言 ❷
「重要顧客から自社商品への不満が出たので、丁寧に対応した結果、解約を回避できた」
当方からの質問例
なぜその対応が適切だと判断したのか、その根拠を教えてください。
また、他の選択肢をどのように評価し、なぜその選択肢を優先したのでしょうか。
相手の発言 ❸
「個々のチームメンバーへの細かい指導の結果、チームの成績が過去最高を記録した」
当方からの質問例
細かい指導の具体的な内容と、それが適切だと判断した根拠は何でしょうか。
さらに、その指導と過去最高の成績との因果関係を、どのように分析していますか。
少々、いやらしい質問に聞こえるかもしれませんが、「なぜそう言えるのか」「その判断の根拠は何か」「他の選択肢をどう評価したのか」など、一つの回答に対して、さらに深く掘り下げる質問を重ねることはとても大切です。
こうした質問を続けていると、思考が整理されていない候補者は、回答に矛盾が出たり、そもそも答えられなかったりします。思考の質と営業の質には強い相関があります。考えが浅い候補者は、往々にして場当たり的な営業をしていることが多いのです。
c. レファレンス・チェックは“最後の砦”
このように事実の確認ではなく、思考の質を見極める質問をどれだけ工夫したとしても、面接だけで採用の確度を7割以上に引き上げるのは難しいのが現実です。
だからこそ絶対に欠かせないのが「レファレンス・チェック」です。
レファレンス・チェックとは
採用選考において、候補者の前職または現職の上司や同僚といった一緒に働いたことのある第三者から、当時の仕事ぶりや人柄、実績などを確認する調査
オフィシャルな形式のレファレンス・チェックもありますが、私はできるだけ本音を聞ける形で、複数の関係者にヒアリングするようにしています。
レファレンス・チェックにおいては、営業パーソンに必要な資質と役割のうちの「組織人」としての評価が特に重要になります。
過去の営業成績も優秀で、かつ面接時の質問にも淀みなく回答していたとしても、いざチームに入るとチームメンバーとの協働ができないという人も決して珍しくありません。
だからこそ、この「組織人」としての評価をレファレンス・チェックで徹底的に確認するようにしています。
営業パーソンに求められる資質と役割について、こちらの記事で解説しています。👇🏼
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3. 私の現場経験から(コラム)
現場経験から言えること
私自身も外資系企業への転職を経験しており、当然、面接を受ける側として何度もインタビューの場に立ってきました。その中である時、苦い経験をしたことがあります。
面接の最中に、私は「この業界は成熟産業なので、ビジネスを推進していくためにはかなりの工夫が必要だ」といった趣旨の発言をしました。すると、相手の外国人面接官から、次のような矢継ぎ早の質問が飛んできたのです。
「なぜ、成熟産業だと思うのか?」
「なぜ、成熟産業では工夫が必要なのか?」
「では、成長産業では工夫は不要なのか?」
私としては、その業界が成熟産業であることは「ある種の既成事実」だと思い込んでいたため、何の疑問もなくそのフレーズを使ってしまっていました。そのため、「なぜ成長産業では工夫が不要なのか」という視点での質問は、まったく想定していなかったのです。
結果、私の回答はしどろもどろになってしまいました。
この手痛い失敗以降、私は面接に臨む際、自分自身の言葉に対して「なぜそう言えるのか?」「その判断の根拠は何か?」「他の選択肢をどう評価したのか?」を、何度も自問自答して準備を重ねるようになったのです。
4. まとめ
ヘッドハンターの紹介文や経歴書が完璧で、かつ面接でも淀みなく回答していた候補者が、レファレンス・チェックでは評価がまったく振るわないーーーそんなケースも決して珍しくありません。
そうした結果が出たときは、正直なところ、事前にリスクを回避できたことに胸をなでおろすこともあります。裏を返せば、レファレンスなしの採用は「当たるも八卦当たらぬも八卦」であり、運任せの採用になりかねないということです。
人の真価をたった1回や2回の面接だけで見極めるのは、まずもって不可能です。だからこそ、中途採用の精度を高めるためには、以下のプロセスが不可欠だと強く感じています。
面接時に「思考の質」を確認できる質問を入念に準備すること。そして、最後には必ず「レファレンス・チェック」を実施すること。
この2つを徹底することこそが、履歴書の見栄えに惑わされず、自社に本当にマッチした「即戦力」を確実に迎えるための唯一の道なのです。
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