営業プロセスを「構造化」することが成果の再現性に繋がるーーー。「総論」としては理解できても、「具体的にどのように再現性へ繋がるのかがよくわからない」という疑問や不満(?)を持つ方は少なくありません。
どれほど個々の営業担当者が熱心に活動していたとしても、組織全体を俯瞰したとき、情報の共有が滞る、共通の基準で進捗を管理できない、若手層の育成が放置される、といった課題に直面している企業は珍しくありません。
個々の営業活動を「全体最適」の視点から構造化することは、日々の規律ある行動を組織全体の成果へとシームレスに結びつけるための核心的な取り組みです。
この記事では、「構造化」を抽象論で終わらせず、私の長年の営業経験を踏まえ、「構造化」がなぜ営業の課題を解決できるのか、そして「担当者」と「組織」のそれぞれにどのような具体的メリットをもたらすのかを、実態に即した視点から、具体的に解説します。
1. はじめに
別記事『営業に構造化を取り入れよう!|営業を再現可能な型に変える方法』で解説しましたが、営業の構造化とは以下のような思考プロセスです。
「営業を構造化する」とは…
複雑かつ長期の営業プロセスをさまざまな側面から要素に分解し、そこから成約に向けた具体的なロードマップを作成、具体的なアクションの道筋を明確化していくこと
この「営業の構造化」の効果は、担当者個人の安定した営業成果の創出と、営業組織の効率かつ効果的な運営の双方に現れます。
以下では、担当者個人と組織双方の視点から、営業の構造化が必要となる要因と、その効果について詳しく説明していきたいと思います。
2. 担当者「個人」への効果
まずは、営業プロセスを「ステージ(進捗)」という要素で分解した場合に、構造化アプローチがどのように機能するのかを、営業担当者「個人」の視点から整理します。構造化されていない営業が陥りやすい【課題】と、構造化を取り入れることで期待される【導入の効果】についてまとめました。
a. 営業ステージに応じた適切なアクション
営業活動には必ず目的があります。各ステージの目的に即した適切なアクションをとることは、営業の構造化の第一歩です。
【課題】商品を売ることを最優先
「商品を売ること」を営業活動の最優先として捉えがちなため、営業プロセスの初期段階から商品紹介に踏み込んでしまう
【導入の効果】各ステージに応じた適切な行動
構造化アプローチは、早まった商品紹介を避け、各ステージで果たすべき役割を正しく実行するため、効果的・効率的な営業活動の実現が可能となる
b. 質の高い情報の収集
構造化アプローチは、商品紹介に踏み込む前に、顧客の背後にある潜在ニーズを把握すべく、そのステージで本当に必要な情報を確実に収集することを要求します。これらの情報の積み上げが、後続の提案の質を左右する重要なアクションになります。
【問題の所在】潜在ニーズの見落とし
営業の進捗(ステージ)とは無関係に、事前に設計されていない場当たり的なヒアリングを続けてしまうことで、各ステージで入手すべき情報が断片的にしか確保できず、顧客の潜在ニーズを掴むことができない
【導入の効果】質の高い情報の取得
顧客属性の理解・課題の探求・意思決定構造の把握などの前工程を飛ばさず、必要な情報を段階的に取得・蓄積することができる
c. 再現性のある成果創出
営業成果はどうしても経済環境や市場環境の影響を受けざるを得ませんが、再現性が確保できることで、その影響を和らげることが期待できます。
【問題の所在】運任せの営業への傾斜
属人的な経験やテクニック、センスだけに頼り、場当たり的に対応を続けてしまうため、外部環境の変化よって営業成績が大きく左右されてしまう
【導入の効果】再現性のある成果創出
不安定な個人の経験・テクニックへの依存を脱し、営業成果のバラつきを抑え、安定した業績を生み出すことが期待できる
現場経験から|なぜ「商品中心の営業」がいけないのか?
景気が良好で市場が活発なときのように外部環境が右肩上がりの局面では、特別な策を講じずとも営業成績は上昇基調になります。「何をやってもうまくいく」という全能感に満ちた経験は、私自身にも記憶があります。
しかし、逆もまた真なりです。2008年のリーマンショックに端を発する世界的な金融危機の際、市場は文字通り完全に消失し、営業の扉は閉ざされてしまいました。当時、「商品を売ること」そのものを使命としていた私たち営業担当者は、商品の提案を一切受け付けてもらえなくなったために、見事なまでに自分自身の立ち位置を見失ってしまったのです。
この未曾有の危機のなかで、私は「商品中心の営業」の限界を悟り、来るべき市場再開に向けて今本当に何をすべきなのだろうかと真剣に考え始めました。その後の度重なる試行錯誤を経て「営業の構造化アプローチ」を確立させました。「窮すれば通ず」の言葉通り、逆境というネガティブな局面から生まれる本質的な発想こそが、平時では得られない極めて貴重な財産になると今でも痛感しています。
3. 営業「組織」への効果
営業担当者がそれぞれのスタイルで熱心に活動していたとしても、組織全体を俯瞰したとき、情報の共有が滞る、共通の基準で進捗を管理できない、あるいは若手層の育成が放置されるといった課題に直面している企業は珍しくありません。
次に営業「組織」の視点から、課題と問題の所在、そして営業を構造化することによる効果について解説します。
a. 営業パフォーマンスの均質化
営業プロセスの構成を明らかにし、各ステージで実行すべき営業活動を標準化することで、担当者個人による活動のばらつきを最小限に抑制することができます。
【問題の所在】暗黙知の営業
経験豊富な中堅の営業担当者ほど、これまでに培った個人の「暗黙知」に依存した活動を続けてしまうため、組織内において経験の差がダイレクトに業績のばらつきを生むほか、プロセスが不透明なため敗因の分析も困難になる
【導入の効果】営業パフォーマンスの均質化
属人的な経験や判断に頼らない共通のフレームワークを整備することで、組織全体として安定した成果を生み出せる型を確立することが可能となる
b. 組織内の相互理解と連携の向上
構造化された営業活動が「可視化」または「言語化」されることで、共通言語が生まれ、チーム内の相互理解と連携強化が促進されます。
【問題の所在】情報の非一元化
各担当者が独自のスタイルで活動を進めるあまり、周囲との連携が失われ、ナレッジの共有や協力関係が一切ない状態に陥ってしまう。この結果、組織内で個人商店化(サイロ化)が進むと、周囲からのサポートが期待できないだけでなく、チームとしてのシナジーも生まれない
【導入の効果】組織内の相互理解と連携強化
全員が同じフレームワークの下、共通言語で案件を語れるようになるため、情報共有の質が劇的に高まり、組織としての意思決定がスムーズになる
c. リソース配分の最適化
営業プロセスが可視化されることで、各案件がどのステージにあり、どれだけのリソースを投入すべきかが判断しやすくなります。
【問題の所在】属人化の放置と俯瞰的な管理の欠如
営業活動の進め方が個々の担当者に一任されており、組織全体の視点から案件の進捗や活動実態を正確に把握・管理することが不徹底な状況にある
【導入の効果】リソース配分の最適化
営業プロセスの可視化と共通の基準を設けることで、ステージ毎の客観的な見極めが可能となり、限られたリソースの投資効率を最大化することができる
d. 育成の加速
標準化された「フレームワーク」を学ぶことで、成長途上の担当者が効率的に営業活動を遂行できるようになり、早期の戦力化に寄与することが期待できます。
【問題の所在】若手採用後の育成放置
営業経験の浅い若手層を採用したものの、明確な指導基準がないために、一人前になるまで相応の時間を要することになり、組織全体に大きな非効率を生む
【導入の効果】育成の加速
個人の資質に依存せず、誰が取り組んでも成果が再現される仕組みを整えることで、育成スピードが加速し、早期戦力化が実現する
4. 構造化における個人と組織のシームレスな関係性
a. 個人と組織を繋ぐシームレスな関係のメカニズム
営業の構造化がもたらす効果は、個人と組織のそれぞれに独立して現れるものではありません。一つの構造化アプローチが、個人と組織の双方に同時にプラスの波及効果をもたらすというメカニズムが期待されます。
例えば、営業活動の「属人化」から脱却するルートを考えてみましょう。この取り組みは、単に個人のノウハウを共有するだけに留まらず、次のような2つの効果へ同時に分岐し、波及します。
- 個人への効果:経験やセンスに頼らず、安定した営業成果を出せるようになる。
- 組織への効果:メンバー間の業績のバラつき(格差)が抑制され、組織全体の底上げに繋がる。
このような相乗効果を最大化させるためには、個人と組織がそれぞれの役割を明確にしながらも、孤立せず、シームレスに関係性を維持していることが不可欠です。
b. 組織と個人が役割を果たす「領域」
構造化アプローチを正しく機能させるために、この組織と個人がどのような役割を果たす領域にいるのか、そして、両者がどのように接続されるのかを明確にしておくことが欠かせません。これも「構造化」の考え方の一つです。
営業組織と担当者個人それぞれが責任を持つ領域は異なります。
組織の領域
役割:組織のオーバーサイト
営業組織が全体戦略を決定し、プロセス全体を俯瞰したうえで、適切なリソース配分、適切な進捗管理、必要なサポートの提供、そして的確なモニタリングを実行する責任を負う
個人の領域
役割:個人のアカウンタビリティ
営業担当者は全体戦略の下、自身に任された領域におけるアクションについて明確なアカウンタビリティ(説明責任)をもち、決して思考停止に陥ることなく、主体的に活動を継続する責任を負う
c. トップダウンとボトムアックの融合
これら2つの領域が明確になっていることで両者の責任領域が明確になり、構造化の波及効果もより確実なものになっていきます。
営業の構造化を具体化するためには、一定の「型=フレームワーク」が必要になってきますが、これを策定・運営するのは組織の役割(トップダウン)になります。
しかし、営業担当者がそのフレームワークに依存して思考停止に陥ってしまっては意味がありません。自身の活動領域に対して、自律的にアカウンタビリティ(説明責任)をもつ必要があるのです。
このトップダウンとボトムアップの融合こそが、構造化の効果を最大化する推進力となります。

5. まとめ
営業プロセスを営業「組織」と担当者「個人」の両側面から捉えて構造化することは、双方に大きなメリットをもたらします。この構造がシームレスに繋がることで、個人と組織の活動が一貫性をもって機能し、結果として、営業パフォーマンスの最大化と再現性のある成果が実現されます。
本記事の要約
- 営業を構造化することで、担当者個人の営業成果が安定するだけでなく、組織全体の効率的な運営によって「全体最適」が達成される
- 担当者個人がステージに応じた適切なアクションを起こすことで再現性のある営業成果が期待できるようになり、他方、組織の視点からは、主に組織内の相互理解や最適なリソース配分の実現が可能となる
- 構造化の下で、組織は全体のオーバーサイトの機能を担う一方。担当者個人は自分のアクションについてアカウンタビリティ(説明責任)をもつことで、両者のシームレスな関係性が成立する
過去の輝かしい業績を売りに他社へ転職したものの、新天地ではまったく成果を出せず、一気に評価を下げてしまう営業パーソンの話をよく耳にします。直面した壁に対して、自身の営業スタイルの限界を冷静に自覚して学び直すか、それとも組織や上司へ不満を向けてしまうかで、その後の成長スピードは180度変わってきます。
また、個人の天才的な才能に依存する組織営業には必ず限界が訪れます。それよりも、誰が取り組んでも一定以上の成果が再現される「型=フレームワーク」を構築する方が、長期にわたって組織に安定した価値をもたらすのだと、私はこれまでの歩みのなかで身をもって経験しました。
ぜひ、ぜひ、これを機にあなたの組織でも「営業の構造化」を進め、再現性のある強い組織づくりへ一歩を踏み出してみてください。





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