適材適所とは、その人の能力や適性などを正しく評価し、より活躍できる業務や地位に配置する考え方です。しかし、現在のビジネス環境、とりわけ営業領域においては、この概念は必ずしも最適ではないと考えています。
1. 本記事の目的と効果
従来の日本型経営で主流だった「適材適所(人を中心にした配置)」は、現代の成果主義の営業組織においては機能しづらくなっています。
本記事では、30年以上の法人営業の経験から、営業組織を強くするための「適所適材(職務を中心にした配置)」の重要性を解説します。組織のパフォーマンスを最大化させる人材配置のヒントとしてお役立てください。
2. 適材適所|人材中心の配置
まずは、適材適所の考え方について整理してみましょう。
適材適所の合理性を考えるにあたっては、❶業務・地位の適切な配置と❷人材の適正な評価とが鍵になります。この2つの側面から適材適所が抱える課題を掘り下げていきます。
適材適所の課題 ❶: 職務・業務との整合性の欠如
従来の日本的経営システムでは、適材適所が主流でした。人が中心であり、職務・業務はその人に付随するという発想です。ゼネラリスト育成という観点では一定の合理性がありますが、職務・業務との適合性は後回しになりがちです。
また、少数の「できる人材」を中心に、組織全体の役割や業務配置を組み替えてしまうケースも少なくありません。サッカーでいえば、ジダンやメッシのようなスター選手を軸に布陣(フォーメーション)そのものを変えてしまうようなものです。
そうした組織を否定するつもりはありませんが、彼らのように突出した才能と能力があるならまだしも、そうでなければ業務全体のバランスが崩れ、業務が適正に機能しなくなるリスクを抱えることになります
適材適所の課題 ❷:人材の適切な評価
次に「人材の評価」の問題を考えてみましょう。適材適所の下での人材評価は「人となり」や「コミュニケーション能力」など、人格的要素に寄りがちです。
地位についても同様です。右のイラストにも示している通り、営業担当者に求められるスキル(❶~❸のスキル)と、営業マネージャーに求められるリーダーシップのスキル(❹)は本来、異なります。
しかし、営業経験が豊富だったり、過去の営業成績が良いという理由だけで営業マネージャーに昇格するケースも珍しくありません。

人を中心に地位を与える「適材適所」的な発想では、この評価軸が曖昧になりがちです。本来必要な「スキルセット」と「役割」がかみ合わなくなり、組織全体のパフォーマンスを下げる要因になるのです。
営業人材は明確な階層構造を持っています。最下層、つまりすべての土台には「❶組織人としての資質」があり、その上に「❷営業スキル」、さらに「❸マネジメント的な視点とスキル」そして最上位に「❹リーダーシップスキル」が位置付けられます。階層が上がるほど、川上、つまり全体戦略を見通す俯瞰力が求められます。
営業パーソンに求められる資質と役割については、こちらの記事で詳しく解説しています。👇🏼
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了
3. 適所適材|職務中心の配置
適所適材は、職務・業務を中心に据え、そこに最適な人材を配置するという考え方です。専門性を重視した配置方法であり、終身雇用制度や年功序列といった日本的経営から成果主義・能力主義へ移行する現在の環境には適しています。実際、この考え方を採用する企業も増えています。
ただし、適所適材にも課題があります。それは、適所適材そのものの問題というより、運用上の難しさにあります。
適所適材の課題 ❶: ゼネラリストの育成難
これまで日本的経営を指させてきた「ゼネラリスト」の育成が阻害される可能性です。
私は、営業という特定領域の中では、一定の幅を持ったゼネラリストであるべきだと考えております。新規開拓、既存顧客の維持、クライアントサービス、商品説明など、営業担当者は複数の機能とスキルをもつべきです。
職務内容を細分化しすぎると、営業全体を俯瞰できるマネージャーが育ちにくくなるため、職務設計には慎重さが求められます。
対策として
職務を完全に分断するのではなく、「新規開拓をメインとしつつ、既存フォローの進捗も追う」といった、緩やかなグラデーションを持たせた職務定義(ジョブディスクリプション)を作成することも有効です。
適所適材の課題 ❷:適任者の不在
さらに難しいのが、以下のようなケースに直面したときの対応です。
- 該当業務や地位に適した人材が組織内にいない場合
- 適任者が退職してしまった場合
i.の場合、ヘッドカウント(総人数)が限られている組織では、不適任者に退場してもらい、適任者を新たに採用するという判断が必要になることもあります。ドライと思われている外資系企業であっても、退場に対する心理的なハードルは高いものです。
ii.の場合には、優秀な人材ほど他社に引き抜かれてしまうリスクが高くなり、欠員補充は容易ではありません。
特に小規模な組織では、他部署からの適任者の異動という措置が取れず、適所適材の運用が難しくなる場面もあります。
4. 私の現場経験から(コラム)
現場経験から言えること
「適所適材」は職務・業務中心に人材を配置する考え方ですが、「言うは易し」です。組織は生き物ですので、すべてが合理的に組み替えられるわけではありません。
私が外資系企業で働いていた頃、本国の親会社の業績不振を理由に、日本法人でも大幅なリストラが発生しました。営業部門からも一定数のメンバーが退職することになり、大規模な配置換えが必要となりました。
そこで、営業とは無関係な職務に就いていた人材(Aさん)が、営業部に配属されることになったのです。その時、私は強く反対をしたのですが、「Aさんはとても優秀なので、営業もできるよ」という理屈による配置換えでした。
まさに、人材を中心とした業務配置の典型でした。結果は明らかで、本人の意向もあり、1年後には、元の部門へ戻ってったのです。
「優秀な人材なら、どの職務でもすぐに成果を出せるわけではない」という、「適所適材の」の重要性を、この経験を通じて再認識しました。
営業には特有のスキルセットが必要であり、職務の要件(適所)を定義しないまま人を配置すると、本人にとっても組織にとっても不幸な結果を招きかねません。
5. まとめ
このように、適所適材には運用上の難しさが伴います。しかし、長期的にみれば、人に職務・業務を合わせる適材適所よりも、職務・業務に人を合わせる適所適材の方が、現代の営業組織には適していると考えます。営業という職務は、役割ごとに求められるスキルセットが明確に異なり、組織として成果を最大化するには、職務起点の配置がより合理的だからです。
了
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