営業を続けていると、日々の活動がいつの間にか「作業」へと変質し、本来の目的が見えなくなることがあります。いわゆる“目的と手段の混同”です。
組織営業ではプロセスを体系化することで再現性を高められますが、同時に「定型化 → 目的化 → 思考停止」という副作用も生まれます。だからこそ、営業活動では常に「何のために行うのか」を問い続ける姿勢が欠かせません。
1. 本記事の目的と効果
本記事では、私が30年以上の法人営業で培ってきた経験をもとに、営業活動の中心である「顧客との面談」が目的化してしまうことで生じる思考停止のリスクと、本来の営業活動の目的を整理します。
別カテゴリーである「営業の構造化アプローチ」では、プロセスを設計し再現性を高める方法を紹介していますが、その本質を理解しないまま行動だけを踏襲すると、手段が目的化し成果につながらなくなることがあります。
この記事が、日々の営業活動を見直し、本来の目的に立ち返るための一助となれば幸いです。
2. 「会えない」ときの指示・要因の確認
顧客との関係構築は、担当者同士だけでなく、シニア層、役員層へと多層(レイヤー)で広げていくことが重要です。そのため、顧客側の役員が交替すると、自社の役員による表敬訪問を上司が指示することが通例です。これは多くの組織で”定型化した営業活動”として行われていると思います。
しかし、面談のアポイントメントが必ず取れるとは限りません。その際、上司からは「日頃の関係構築が出来ていない」と叱責されることがあります。
a. 「会えない」ときの上司の態度
営業担当者が顧客担当者に「会えない」状況は、決して珍しいことではありません。しかし、その際に「関係構築ができていない証拠だ」と叱責するだけでは、担当者の自信を損ない、状況の改善にもつながりません。
私は、こうした根拠のない否定は適切なマネジメントとは言えないと考えています。重要なのは、事実を冷静に整理し、なぜ会えないのかを徹底的に調べ、その理由を早期に突き止めることです。
上司が取るべき対応は、叱責ではなく、原因を把握するための指示です。営業活動を「思考のプロセス」として捉えることで、担当者は状況を客観的に分析し、改善の糸口を見つけやすくなります。
顧客役員と「会えない」ときの上司がすべきこと
[✖] 叱責
日頃の関係構築ができていない!
[〇] 指示
なぜ会えないか徹底的に調べなさい
b. 「会えない」理由
顧客担当者に会えない理由は、感覚的に語られがちですが、実際には構造的に整理できます。顧客組織の担当者レイヤーを三層で捉えると、会えない理由は主に次の3つに分類できます。
- 自社担当者が、顧客組織の担当者層に面談を打診していない
- 単なる怠慢や失念であれば論外
- ただし、それ以外の事情があれば、それも組織上は有益な情報となり得る場合があるため、必ず理由を確認する
- 顧客側の担当者が何らかの理由で自社役員との面会申し入れを止めている
- 顧客側の担当者は何を理由に役員同士の面談を止めているのかを確認
- 情報不足、関係背の不足、当社に対する低評価・無関心などの仮説を立てる
- 顧客側の役員が何らかの理由で面会を承諾しない
- 役員が面談を避ける背景には、どんな事情や意図があるのかを確認
- 当社と面談するメリットがない、近日中に組織変更が予定されている、などの仮説を立てる

3. 私の現場経験から(コラム)
現場経験から言えること
本記事では、役員との面談が実現しなかった事例をもとに「目的と手段の混同」について解説しましたが、この問題は面談に限ったものではありません。
営業には、情報収集、プレゼンテーション、関係構築といった対外活動から、営業報告や戦略会議などの社内活動まで、数多くの“定型化されたプロセス”が存在します。これらは日常的に行われるため、「当たり前の作業」として扱われがちで、その目的を改めて確認する機会は多くありません。
私自身も若い頃、顧客情報を形式的に報告しては、上司から「So What?(で、だから何?)」と問われ続けた経験があります。情報を並べるだけでは意味がなく、そこから何を読み取り、どう次の行動につなげるのかが重要だということを学びました。
営業担当者としては常に「何のためにこの活動をしているのか」「この情報は何につながるのか」を自問し続けることが不可欠です。また、上司の立場であれば、叱責ではなく、状況を構造的に整理するための適切な指示を出す姿勢が求められます。
この記事が、日々の営業活動を見直し、目的に立ち返るためのヒントになれば幸いです。
4. まとめ
「会えない」という事実の裏に隠れたメッセージを読み解くことこそ、営業の本質的な仕事です。顧客側の担当者への非公式なアプローチ(ランチやディナー等)、顧客側の別の担当者や別部署へのヒアリング、同業他社からの情報収集など、最も確度の高い方法を自ら考え、動く必要があります。上司は、会えないことそのものを叱責するのではなく、会えない理由の徹底究明を指示すべきなのです。
面談はあくまで「手段」であり、「目的」ではありません。だからこそ、そもそも役員面談にどんな意味があるのかを問い直すことで、異なるアプローチや新しい手段を発想できるようになります。
営業活動が定型化すると、手段がいつのまにか目的へと転化しがちです。どんな活動も本来は目的を達成するためのツールにすぎません。「この行動・活動は何のために存在しているのか」を常に自問し続けることが重要です。
了
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