私が以前働いていた外資系運用会社の同僚の一人に、それこそ「立て板に水」の如く、流暢に商品説明をする人がいました。また、顧客とのコミュニケーションが抜群に上手く、周囲から「人たらし」と評される同僚もいました。それに比べて自分は何が取り柄なのだろうか……と、深く悩んだ時期が私にはありました。
「営業という仕事に向き・不向きはあるのだろうか?」
「成果を出すための先天的な資質は存在するのだろうか?」
こうした素朴な疑問は、多くの営業担当者が一度は抱くものだと思います。しかし、営業に求められる資質や役割は、単なる性格や話す技術だけで決まるものではない――これが、同じような悩みをもつ営業パーソンへの私の答えです。
1. 営業の資質とスキルの4層構造
「営業に向き・不向きがあるのか」という問いーーー。約40年という長い営業現場を体験してきた私の結論は、「そんなものはない」です。
ただし、キャリアの段階に応じて求められる「資質とスキル」は明確に存在し、それらを正しく身につけているか否かが、営業パーソンとしての成功を大きく左右するのもまた、紛れもない事実だと思います。
a. 4層構造の概要
営業パーソンに求められるキャリア毎の資質・役割は、次の4つの層で構成されていると考えています。
資質とスキルの4層構造
- 組織人としての資質
- 実践的営業スキル
- 組織補完スキル
- 組織統括スキル
この4層構造を理解することで、自分がどの段階にいるのか、そして次にどの能力を伸ばすべきなのか、どこを改善すべきなのか、が明確になります。また、評価する側も、役割やポジションに見合う資質やスキルを有しているかを判断する材料にもなります。
b. 各層間の関係

まずはじめに、この4層構造を構成するそれぞれの資質とスキルの関係性を説明します。
4層構造の下層ほど基礎・土台としての意味合いが強くなり、これが欠けている状況では、上層の役割を十分に満たすことはできません。このため、最下層にある「❶ 組織人としての資質」は、「スキル」ではなく「資質」としています。
例えば、下から2番目の「❷ 実践的営業スキル」を持っていたとしても、最下層の「❶ 組織人としての資質」が欠けていれば、その営業パーソンは十分なスキルを有しているとは言えません。土台が不安定なままでは、どれほど営業スキルが高くても成果は安定しないからです。
また、どこまでのスキルが求められるかは、営業パーソンのレベルやポジションによって大きく異なります。
若手(アソシエイト)であれば、「❶ 組織人」と「❷ 実践的営業スキル」を満たしていれば十分ですが、シニアレベルの中堅担当者になると、自分自身だけでなくチーム全体を補完する「❸ 組織補完スキル」が必要になります。さらに、営業マネージャーのポジションでは、最上層の「❹ 組織統括スキル」が求められます。
このように、4層構造はキャリアの段階に応じて求められる役割が変化する“成長のロードマップ”としても機能します。
2. それぞれの層に求められるもの(詳細)
次に、それぞれの資質・スキルについて、具体的な内容を順次説明します。
❶ 組織人としての資質
4つの層のなかに「スキル」だけでなく「資質」を含めているのは、この“組織人としての要素”が営業において極めて重要だからです。
具体的には、組織の目的を理解し、組織内における自身の役割と責任を果たしつつ、協調性をもって組織の維持・成長に貢献する姿勢といえます。
一見すると当たり前のように思えますが、実は営業では軽視されがちな資質でもあります。大きな組織になると、必ずと言ってよいほど一人や二人、この資質に欠けた人物がいるものです。皆さんの周りにもいませんか?しかも、そうした人物ほど営業成績が優れていたりするのです。
営業という職種は数字で成果が見える分、「結果さえ出せばよい」「自分のやり方でやる」という“孤高スタイル”が許容されやすい傾向があります。しかし、この発想こそが組織営業を弱体化させる最大の要因であることは間違いありません。
組織人としての資質
誤解があるといけないので、付記しておくと、求められるのは、単なる従順さではありません。 上のポイントでも書いた通り、ルールを守りながらも、言うべきことはきちんと言う、健全なコンフリクトを避けず、組織全体の成果に責任を持つ、この姿勢こそが、営業パーソンにとって不可欠な「組織人としての資質」なのです。
❷ 実践的営業スキル
組織人としての資質という土台の上に、初めてコアとしての営業スキルが求められます。ここで重要なのは、表面的な「営業テクニック」や「営業技術」と混同しないことです。
私なりの「実践的営業スキル」は、大きく以下の3つの要素に集約されます。
実践的営業スキル
これら3つが揃って初めて、営業パーソンとしての基礎が成立します。なかでも特に重要なのが、3つめの「ビジネスをドライブするスキル」です。
例えるなら、「業界全般に関する知識」と「顧客との関係構築スキル」が車の両輪だとすると、「ビジネスをドライブするスキル」が目的地へ導くために操作するハンドルです。
ビジネスの道筋は、決して広大かつ平坦な一本道ではありません。曲がりくねっていたり、予期せぬ渋滞や障害物、時には通行止めに直面することもあります。優秀なドライバーが状況に応じて柔軟に進路を変えるように、営業パーソンにも、状況に応じて臨機応変に舵を切るスキルが求められます。
ただし、それは”場当たり的”に進路を決定するのではなく、事前に「考えた」複数のルートの中から、そのときの状況に応じた進路を決定するものであり、まさに営業戦略をどれだけ適切に策定できるかに関連します。
より中堅の営業パーソンになるほど、「ビジネスをドライブするスキル」が求められる割合が高くなるべきでしょう。
❸ 組織補完スキル
シニアクラスの営業パーソンには、単なるプレイヤーの枠を超えたマネジメント的な視点とスキルが求められます。
営業担当者でありながら組織や全社のために発揮すべき能力のことです。これを「組織補完スキル」と呼んでいます。具体的には、以下の3つの要素に集約されます。
組織補完スキル
組織で営業活動を遂行する以上、プロセスの効率化に伴う「分業」は避けられません。しかし、分業が進むほど、どうしても個々の役割の間に”落ちる”仕事がが発生してしまいます。
この分業の隙間を感知し、それを放置せず自らそれらを拾い上げられるかどうかに、シニア営業パーソンの価値があります。
自分の担当範囲を超えて組織全体を俯瞰し、他の同僚を巻き込んで隙間を埋めに行くーーー。このような姿勢とスキルが身につくことが、次なるステップとして管理職(営業マネージャー)への布石となっていきます。
❹ 組織統括スキル
営業担当者として優秀な成績を上げた人が、そのまま営業マネージャーに昇格するケースは本当によく見られます。実は、私がかつて在籍していた営業チームでも、まさにそうした人事がありました。
「プレイヤーとしてのスキル」と「マネージャーとしてのスキル」がまったくの別物であることは、今やどの組織でも周知の事実です。それにもかかわらず、営業現場では依然として「過去の営業成績」がマネージャーへのキャリアアップの評価基準として用いられていることが多いように、私は感じています。
そうした現場での実体験を踏まえ、私の考える「営業マネージャーの役割」を次の3点に集約しました。
組織統括スキル
しかしながら、この3つを完璧にこなせる営業マネージャーに、私はこれまでの長いキャリアの中でも未だ出会ったことがありません。とはいえ、どれも欠かすことのできない中核スキルであることには違いありません。
だからこそ、営業マネージャーに必要なのは、3つすべてを担う責任があるという自覚をもちつつも、「自分はどの役割が強く、どこが弱いのか」を理解したうえで、足りない部分は信頼すべき他のメンバーに移譲することだと思います。
強みだけで進むのではなく、弱点を放置しない。この内省姿勢こそが、リーダーシップの本質ではないでしょうか。
3. まとめ
営業という仕事は、個人のセンスやテクニックで語られがちですが、実際には「求められる資質とスキル」が明確に存在します。そして、それらはキャリアの段階によって変化し、積み重なる構造になっています。下層の条件を満たさずして、上層が評価されることはまずありません。
本記事の要約
- 営業パーソンに求められるキャリア毎の資質・役割は、次の4つの層で構成されている。
- 組織人としての資質
- 実践的営業スキル
- 組織補完スキル
- 組織統括スキル
- この4層のいずれかが独立しているわけではなく、下層を満たしてこそ、その上位のスキルが必要になる
自分はいま、どの層を満たしていて、どの層が弱いのか。
どのスキルが未熟で、どこに伸びしろがあるのか。
この問いに向き合うことが、営業としての成長を最も加速させます。本ブログが、あなた自身の営業キャリアを見つめ直すきっかけになれば幸いです。





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