以前、職場における相互理解を深める取組みの一環で、各部署が持ち回りで社内勉強会を開催したことがありました。私は営業部の代表として講師を務め、冒頭で参加者に一つの質問を投げかけました。
「営業の最も重要な仕事は何だと思いますか?」
参加者からは「契約を取ること」「顧客と信頼関係を構築すること」「契約後の社内コントロール」といった答えが返ってきました。どれも正解だとは思うのですが、私の答えは少し違っていました。
営業の最も重要な仕事、それは、
質の高い情報を集めること
参加していた同僚のみならず、営業部のメンバーさえも、そのほとんどがポカーンとした表情だったのを覚えています。
ソリューション型営業が主流となった現代において、良質な情報がなければ顧客の課題把握も提案の設計も成り立ちません。高品質な情報を集めることこそが、営業の原理原則であり、成果を左右する最大の出発点です。
1. 質の低い情報とは?
「営業とは、モノを売ることではなく、顧客が抱える課題を解決すること」というのが、いまや常識になりました。そのためには顧客に対する深い理解や信頼構築、そして提案型・ソリューション力が重要だ、これも誰もが知っています。
しかし、顧客にとって有効なソリューション提案するには、顧客に関する情報が必要不可欠です。しかし、その情報量は多ければ多いほど良い、というわけではありません。
まずは、あえて逆の視点から、質の低い情報とはどのような情報を指すのかを紹介したいと思います。
a. 質の低い情報とは?|ケーススタディ
次の事例は、営業初心者に”ありがち”なケースをフィクションとして作ってみました。フィクションではありますが、私の経験では、営業初心者に限らず、中堅の営業担当者でさえも大変よく見られたケースです。
- 営業初心者のAさんは、初回のアポイント獲得のためにコールドコールを行い、なんとか面談の約束を取り付けました。Aさんは、売れ行きの良い幾つかの商品について事前に勉強し、当日のミーティングに臨みました。
- ミーティング当日、さっそく自社の有力商品一覧を見せながら、「どんな商品をお探しですか?」と尋ねたところ、顧客から、かなり具体的な商品要件をヒアリングすることができました。
- 次回訪問では、そのニーズにぴったりの自社商品のプレゼンテーションを実施しました。しかし、残念ながら、会話は全く深まらず、顧客の反応はいまひとつでした。
- そして、結果は、どの商品も「不採用(!)」でした。
この営業担当者にしてみれば、初回ミーティングの場でさっそく商品に関する詳細なニーズ情報を得ることができたのです。きっと「よしっ!うまく情報を取れたぞ!」と思ったに違いありません。「あとは、このニーズにぴったりの商品を提示すればよいだけだ!」と。
しかし、結果は「不採用」…
このケースは、顧客の口から発せられるニーズ情報が、必ずしも重要な情報ではないことを示しています。顧客の組織構造、担当者の立場、意思決定の流れ、過去の取り組みなど、より深い情報を得て初めて、的確な提案やコミュニケーションが可能になります。
b. 質の低い情報はどれだけ集めても無益
上の例でもわかる通り、営業活動において重要なのは、情報の「量」ではなく「質」です。 どれだけ多くの情報を集めても、顧客の状況や課題の本質に迫れていなければ、提案の精度は上がりません。ソリューション型営業が一般化した現在でも、良質な情報がなければ課題の把握も提案の設計も成り立たないという点は変わりません。
顧客との面談において、何を確かめたいのか、どの論点を見極めたいのかという事前の準備があってこそ、「高品質な情報」が獲得できます。準備が不十分であれば、重要なヒントが目の前にあっても、それを情報として認識できません。
そして、後述する通り、獲得した「高品質な情報」をもとに、どれだけ考え抜けるかが、営業の成果を分けるといっても過言ではありません。情報の質が高ければ、思考の質も高まり、提案や解決の精度は確実に上がります。まさに、情報の質が営業の質を決定づけると言っても過言ではありません。
c. 顕在化している情報の価値は低い
顧客が詳細な要望を明確に言語化している場合、その情報はすでに「顕在化した情報」です。一見すると有益に思えますが、実はこの顕在化した情報の価値は高くありません。なぜなら、顧客がここまで要件を具体化できているということは、同じ情報を競合他社もほぼ確実に把握しているからです。
顧客の要求が明確になった時点で、検討領域はすでに狭まり、競争は激化します。提案内容も似通いやすく、差別化が難しくなるため、勝敗は「製品の圧倒的な優位性」などの、営業担当者が関与できない領域に依存してしまいます。いわば、結果がどちらに転ぶかは予測しづらい領域に入ってしまいます。
本当に価値のある「高品質な情報」とは、顧客がまだ言語化できていない「潜在的な課題」や「背景にある意図に踏み込んだ情報」です。顕在化した情報だけに頼るのではなく、その背後にある構造や動機を読み解くことが、営業としての本質的な価値につながります。
「理想論はそうだけど…」という声が聞こえてきそうですので、高品質な情報の具体的な集め方を次章で解説しましょう。
2. 高品質な情報の収集方法
どのように高品質な情報を入手するのかについて、私が常に心掛けている方法を紹介させていただきます。ポイントは次の3点です。
a. 事実の背景に潜む情報を集める
取得した情報の「事実/事象」ももちろん重要ですが、それだけでは十分な意味を持ちません。 その情報の背後にある理由や要因、意思決定の根拠、経緯──こうした「背後にあるもの」を探ることで、情報は初めて価値を持ちます。そのためには、よく言われるように「なぜ」を繰り返すことが重要です。
「なぜ、このスペックが必要なのか」
「なぜ、その会社の商品を選んだのか」
「なぜ、その価格では社内決裁が通らないのか」
こうした「なぜ」を深掘りする時間こそが、情報の質を高めるために不可欠です。
b. 事前に仮説を立て、仮説を検証・補完するための情報収集を行う
事実の観察は、常に何らかの考えや解釈、仮説に基づいて行われなければなりません。 仮説を持たないままヒアリングしても、情報はただバラバラと散在しているだけで、意味のある情報構造を見出すことは不可能です。
事前の仮説をもとに、面談中の相手の発言からヒントを拾い出し、仮説の内容をブラッシュアップします。そして、その仮説を補強あるいは反証するための情報を意識的に再収集していきます。
仮説を持つことで、情報収集の「目的」が明確になり、得られる情報の質が大きく向上します。
c. 収集した情報の構造と相互の関係性を把握する
情報は必ず「構造」をもっていますので、一定の基準に沿って情報を分解してみます。そして、どの構成要素が顧客の判断や意思決定の鍵を握っているのかを見定めます。
さらに重要なのは「どの情報がどの情報と関係しているのか」を把握することです。 情報同士の関係性を理解することで、どの情報が核となるのかが見えてきます。
そのためには、常に仮説構築のための情報を意識しながら、情報の構造を立体的に捉える姿勢が求められます。
現場経験から|情報収集の限界
「法人営業の真髄は、顧客を深く理解するために質の高い情報を集めることにある」という話をすると、必ず次のような反論が出てきます。
” 理想はその通りかもしれないが、現実には大企業の顧客ほどビジネスは多岐にわたっており、たかだかイチ営業者が取れる情報にはどうしても限界がある “
確かに、顧客の規模が大きくなるほど、営業担当者が入手できる情報に限界があるのは事実です。しかし、だからこそ「仮説」が必要なのです。もしすべての情報が手に入るのであれば、そもそも仮説を立てる必要はありません。情報に限界があるからこそ、仮説が大きな武器になるのです。
情報収集、分析、仮説構築、そしてさらなる情報収集。このサイクルを繰り返すことで、ゼロだった情報は1になり、3になり、5になり、情報の質は間違いなく高まっていきます。出発点となる情報の質が低ければ、的を射た提案はできません。ビジネスを適切にドライブさせるためにも、この情報と仮説のサイクルこそが重要であると、すべての営業パーソンに知っていただきたいと考えています。
3. まとめ
別記事でも解説を予定していますが、情報はそれだけでは意味を持ちません。そこに問いや疑問が付随して初めて意味を持ちます。
そして、情報は必ず構造を有していますので、それを解きほぐしていくことが、その情報をもとにした仮説構築の鍵です。
目的をもって必要な情報を収集し、そこから仮説を構築し、その仮説を検証するために再度、情報収集を行う。この一連の作業によって入手する情報こそが「高品質な情報」なのです。
本記事の要約
- 顧客が既に言語化している顕在化した情報は質の低い情報であり、どれだけ沢山あつめても有益な情報はならない。
- 情報の背景を掴み、分析し、仮説を立て、また情報を取りに行く。この「情報収集→仮説構築→更なる情報収集」というサイクルを何度も何度も繰り返したことで蓄積した情報こそが「高品質な情報」である。
- 高品質な情報”こそが、効果的な提案の”源泉”になり、営業の質を決定づける





この記事でわかること